キャッシュレスは日常の買い物だけでなく、税金を支払う際にも活用が広まりつつあります。ただし、税金のキャッシュレス納付と一口にいっても、納付方法にはいくつかの種類があります。では、どのような納付方法を選べるのでしょうか。
ここでは、キャッシュレス納付による税金の支払い方やメリット・デメリットを解説します。キャッシュレス納付を利用したことがない方はもちろんのこと、すでに利用したことのあるキャッシュレス納付以外の税金の支払方法を知りたい方も、ぜひ参考にしてください。
目次
キャッシュレス納付とは、現金を使わない税金の納付方法のことです。キャッシュレス納付が導入される前は、税金を支払う際には自宅や事業所に郵送された納付書を金融機関などへ持参し、現金で支払う必要がありました。その後、クレジットカード納付などの現金が不要な納付方法が導入され、さまざまな納付方法が選べるようになりつつあります。
キャッシュレス納付の方法は、スマートフォンなどの新たなデバイスの登場や決済手段の多様化とともに増えています。2022年12月からは国税のスマホアプリ納付が可能になったほか、2023年4月からは地方税統一QRコード※のインターネットバンキングなどへの活用が始まりました。
キャッシュレス納付の利用状況については、2022年度の実績では、国税の納付件数のうち64.1%が金融機関や税務署の窓口、コンビニでの納付となっており、キャッシュレス納付は35.9%にとどまっているのが実情です。一方で、国はキャッシュレス納付の利用件数の拡大を推進しているため、今後はさらなるキャッシュレス納付の拡大が見込まれるでしょう。
キャッシュレス納付で利用できる支払方法は、税目によって異なります。国税に関しては、基本的にすべての税目でキャッシュレス納付が利用可能です。地方税についても、法人住民税や法人事業税、個人住民税など、幅広い税目の納付で利用できます。
キャッシュレス納付では、どのような納付方法が選べるのでしょうか。主な納付方法について、必要になる手続きなどを確認していきましょう。
ダイレクト納付とは、金融機関の口座から引き落として税金を納付する仕組みのことです。国税の場合はe-Tax、地方税の場合はeLTAXで利用できます。ダイレクト納付を利用する際には、下記のように事前に届出や口座情報の登録などの手順が必要です。なお、2024年4月からは、e-Taxで申告書などのデータを送信する際に必要事項にチェックするだけで、自動的にダイレクト納付が利用できる自動ダイレクトと呼ばれる手続きも導入されています。
<国税のダイレクト納付の利用手順>
<地方税のダイレクト納付の利用手順>
国税の場合、届出書の提出から利用開始までの期間は、書面提出の場合は約1ヵ月、オンライン提出の場合は約10日程度です。地方税の場合は、口座振替依頼書の提出から利用開始まで、約1ヵ月程度の期間がかかります。
国税と地方税のそれぞれで、ダイレクト納付が利用できる税目は下記のとおりです。
■ダイレクト納付を利用できる税目
国税 | 地方税 |
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国税や地方税では、インターネットバンキングやモバイルバンキングからの納付も可能です。公共料金、税金などの支払情報が即座に収納機関に通知されるサービスであるペイジーに対応している金融機関から、納付することができます。国税、地方税それぞれの利用手順は下記のとおりです。
<国税のインターネットバンキング・モバイルバイキングの利用手順>
<地方税のインターネットバンキング・モバイルバンキングの利用手順>
クレジットカード納付は、専用のWebサイトからクレジットカード情報を入力して納付する方法です。国税の場合は「国税クレジットカードお支払サイト」から、地方税の場合は「F-REGI公金支払い」から支払います。国税はe-Tax、地方税はeLTAXの操作画面でクレジットカードでの支払いを選択すると、専用サイトへと遷移するため、遷移先で手続きを行いましょう。
スマホアプリ納付は、いわゆるPay払いで税金を納付する方法です。PayPay、d払い、au PAYなどが利用できますが、国税と地方税では手順が異なる点に注意しましょう。
国税は、e-Taxにより申告等の手続を行っていただいた上、e-Taxを経由して「国税スマートフォン決済専用サイト」から支払いますが、地方税の場合、納付書に記載された地方税統一QRコードをスマートフォンの決済アプリで読み込むことでスマホアプリ納付を行います。なお、地方税統一QRコードについては、スマートフォンで「地方税お支払サイト」にアクセスしてQRコードをWebサイト上で読み込み、クレジットカードなどで支払うことも可能です。
■地方税のスマホアプリ納付のイメージ
なお、国税の納付に関しては、納付額に30万円の上限が設けられています。地方税に関しても、支払うアプリによって上限が異なる点に注意が必要です。また、国税ではすべての税目でスマホアプリ納付を利用できますが、地方税では自動車税種別割(以下「自動車税」とする)や固定資産税などに限定されています。
振替納税は、ダイレクト納付と同様、金融機関の口座から引き落とされる納付方法ですが、振替納税とダイレクト納付では対象税目などが異なります。国税の場合、対象税目は申告所得税と個人の消費税などに限られていて、地方税の場合、自治体ごとに対象税目が決められています。また、ダイレクト納付と異なり、振替納税では納付日の指定ができません。
振替納税を利用するには、専用の振替依頼書を税務署や地方税の担当窓口、金融機関へ事前に提出する必要があります。振替依頼書の提出はオンラインでできる場合もあり、国税の場合はe-Taxのシステム上でも可能で、地方税の場合は東京都などが専用サイトでの提出を受け付けています。
キャッシュレスで税金を支払うことには、さまざまなメリットがあります。主なメリットとしては、下記3点が挙げられます。
パソコンやスマートフォンを利用したキャッシュレス納付であれば、時間を選ばずにいつでも税金を支払えます。インターネットに接続できる端末さえあれば、金融機関や税務署などの窓口受付時間外でも納付手続が可能です。コンビニなどに出向く必要もないため、手間や時間をかけずに税金を納められます。
なお、税金には納付期限が設けられています。期限までに余裕をもって納税するのが理想ですが、場合によってはやむをえず期限を目前に急いで納付しなければならないケースもあるかもしれません。そのようなケースでも、自宅でキャッシュレス納付ができれば、すぐに納付手続を完了できる可能性があります。
また、金融機関や税務署の窓口で納付しようとすると、窓口の受付時間に合わせるために予定を調整したり、窓口が混雑していて時間がかかったりすることも考えられます。こうした負担を軽減できることも、キャッシュレス納付の利用によるメリットのひとつです。
キャッシュレス納付では現金を取り扱わないため、手元に現金を用意することなく税金を納付できる点もメリットです。従来の納付方法では、金融機関や税務署などの窓口へ出向く際に現金の準備が必須でした。納付期限に間に合うように現金を用意し、金融機関や税務署などの窓口受付時間内に手続きを完了させるためには、少なくない労力がかかります。現金の用意が不要になることで、このような負担を軽減できます。
また、多額の現金を持ち歩く必要がなくなることは、安全面においても重要です。現金の盗難や紛失といったリスクを回避でき、より安全に税金を納付できます。
キャッシュレス納付を利用する際の納付方法によっては、ポイントを獲得できる場合があることもメリットといえます。例えば、クレジットカードやPay払いの中には、税金の支払いでポイントを獲得できるサービスもあります。
税目によっては、一度にまとまった額の税金を納めることも想定されるため、ポイントを効率良く貯めることも可能です。付与されるポイントや条件は支払い方法ごとに異なるため、ポイントの付与率が高い支払い方法を選ぶことをおすすめします。
キャッシュレス納付にはさまざまなメリットがある反面、デメリットもあります。下記3点については注意が必要です。
キャッシュレス納付によって税金を納めた場合、領収証が発行されないケースもあるのが実情です。領収証は納税を済ませている証明となるため、さまざまな手続きの際に領収証の提示を求められる可能性があります。
例えば車検の際、従来は自動車税の納税証明書を提示する必要がありました。2015年4月より自動車税納税証明書の提示が省略可能になったとはいえ、領収証を用意したほうがスムーズに手続きが進むことも考えられます。領収証が必要な手続きを行う予定がある場合は、現金払いを選択するほうが得策です。
税金を納付した後は、納税証明書を請求することはできますが、税目によっては納税の確認が取れるまでに一定の期間を要する場合があります。例えば、自動車税の場合は、運輸支局などで納税が確認できるようになるまでに2週間程度かかるケースもあります。納税証明書を提出する手続きが控えている場合は、期間に余裕をもって納税しましょう。
税金を納めた後で誤りなどに気づいた場合、取り消しの手続きが煩雑になる点もキャッシュレス納付のデメリットの1つです。特に下記の支払い方法に関しては、納付後の取り消しが基本的にはできません。
<納付後の取り消しが基本的にできない支払い方法>
万が一、税目や金額に誤りがあったことに気づいた場合は、基本的に還付手続きが必要です。税務署へ連絡し、還付手続きを行ったのちにあらためて正しい税目・金額で納付することになります。
なお、e-Taxに届いた通知にもとづいて国税をダイレクト納付した場合、指定した納付日よりも前の日付であれば、納付日の修正が可能です。また、国税の振替納税については、最後に提出された申告書にもとづいて振替処理がなされます。よって、申告期限内に修正した内容の申告書を提出すれば、税目や金額などの修正が可能です。
キャッシュレス納付では、支払い方法によっては利用できる税目が限定されていたり、金額の上限が設定されていたりする場合があります。所定の決済手数料がかかるケースもある点にも注意が必要です。
例えば、国税のスマホアプリ納付の場合は、納付書1枚あたり30万円以下の場合のみ利用可能です。30万円を1円でも超えると対象外となる点に注意してください。
ダイレクト納付や振替納税に関しては、対応可能な税目が限られています。対応可能な税目を事前に確認して、ダイレクト納付や振替納税ができない場合は別の納付方法を選んでください。
また、クレジットカード納付の場合、納税額に応じて決済手数料がかかります。国税の場合、「国税クレジットカードお支払サイト」では、決済手数料を含めた支払金額を確認できます。事前にWebサイト上で支払金額合計を確認した上で、支払い手続きを進めましょう。
キャッシュレス納付は現金を使わない納税方法で、国としても利用を推進している仕組みです。ダイレクト納付、インターネットバンキング・モバイルバンキング納付、クレジットカード納付、スマホアプリ納付、振替納税の中から、税目ごとに対応している支払い方法を選べます。
キャッシュレス納付を利用することで時間を選ばずに税金を納付できるほか、現金を用意することなく納付でき、クレジットカードのポイントや各種Pay払いのポイントを獲得できる可能性もあるため、その点をメリットに感じる方は積極的に活用しましょう。ただし、領収証が発行されないケースがあることや、取り消しの手続きが煩雑になる場合があること、納付方法によっては利用できる税目や納付金額に制限がある点などに注意してください。
キャッシュレス納付のメリットを活かすには、e-Tax・eLTAXでの申告やキャッシュレス納付に対応している電子申告ソフトを活用することをおすすめします。達人シリーズの「電子申告の達人」では、e-Tax・eLTAXによる電子申告だけでなく、ダイレクト納付(自動ダイレクト含む)、インターネットバンキング、クレジットカード納付、コンビニ納付(QRコード作成)、スマホアプリ納付による納付も可能です。「法人税の達人」「所得税の達人」などの申告書作成ソフトで作成した申告書のデータを電子申告データに変換し、オンラインで提出後、納税まで完了できます。
また、カスタマイズオプションである「外部連携」を活用することで、ほかのシステムで作成した給与所得の源泉徴収票などの一括取り込みが可能になるほか、取り込んだデータのエラーチェックの実施も可能です。キャッシュレス決済の利便性を最大限に活かしたい場合は、ぜひ「電子申告の達人」と「外部連携」を組み合わせてご活用ください。
監修者
石割由紀人(石割公認会計士事務所)
公認会計士・税理士、資本政策コンサルタント。PwC監査法人・税理士法人にて監査、株式上場支援、税務業務に従事し、外資系通信スタートアップのCFOや、大手ベンチャーキャピタル、上場会社役員などを経て、スタートアップ支援に特化した「Gemstone税理士法人」を設立し、運営している。