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中小企業向け賃上げ促進税制とは?概要や要件をわかりやすく解説

中小企業向け賃上げ促進税制とは?概要や要件をわかりやすく解説

従業員満足度の向上や人材採用の強化に向けて、賃上げを実施する企業も少なくありません。その際に検討しておきたいのが、賃上げ促進税制の活用です。賃上げ促進税制では、従業員に支払う給与を増加させたり、教育訓練費を負担したりした場合に、税制優遇を受けられます。では、賃上げ促進税制にはどのような適用要件があり、どの程度の節税が可能なのでしょうか。

ここでは、中小企業向け賃上げ促進税制に関する基本的な知識や要件、注意点などについて解説します。

中小企業向け賃上げ促進税制とは、賃上げや人材育成投資を行う企業などへの税制優遇

中小企業向け賃上げ促進税制とは、中小企業などが行う賃上げや人材育成投資による税額を減額できる制度です。対象となる法人や個人事業主が給与などの支給額を一定割合以上増加させた場合に、増加分に控除率をかけた金額を税額から控除できます。また、青色申告書を提出する従業員数2,000人以下の中堅企業や、中小企業・中堅企業に該当しない大企業でも賃上げ促進税制の適用は受けられますが、控除率などが異なります。

賃上げ促進税制は従来からある制度で、2024年3月31日までの期限が設けられていましたが、2024年度の税制改正で期限が3年間延長されました。同時に税制優遇の内容も拡充され、最大控除率が5%増加し、中小企業については最大45%に、大企業や中堅企業については最大35%になりました。

中小企業向けの賃上げ促進税制が利用できるのは、下記のいずれかに該当した場合です。

<賃上げ促進税制の対象となる中小企業者などの要件>

  • ・ 資本金の額または出資金の額が1億円以下の青色申告書を提出する法人(同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人、2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人を除く)
  • ・ 資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の青色申告書を提出する法人
  • ・ 青色申告書を提出する協同組合など(中小企業等協同組合、出資組合である商工組合など)
  • ・ 従業員数が1,000人以下の青色申告書を提出する個人事業主

2024年度税制改正の変更ポイント

2024年度税制改正に伴い、賃上げ促進税制はどのように変更されたのでしょうか。主な変更ポイントは下記の2点です。

子育てとの両立・女性活躍支援による控除率の上乗せ制度の新設

2024年度税制改正で、賃上げ促進税制に子育てとの両立・女性活躍支援による控除率の上乗せ制度が新設されました。

賃上げ促進税制の対象となるための要件には、必須要件と上乗せ要件の2種類があります。必須要件とは、従業員に支給した給与などの額が前年度と比べて一定の割合以上増加していることで、この要件を満たさない限り、賃上げ促進税制は適用できません。必須要件を満たした上で、教育訓練費の額が前年度と比べて増加しているなどの上乗せ要件を満たせば、控除率が上乗せされていました。

2024年度税制改正に伴い、上乗せ要件に子育てとの両立・女性活躍支援に関する制度が新設されています。子育てをサポートする企業や、女性が活躍する企業の認定制度である「くるみん」や「えるぼし」などの認定を受けている企業について、控除率が5%上乗せされることになりました。

なお、「くるみん」や「えるぼし」の制度には、取り組みの水準に応じていくつかの種類があります。どの程度の水準を満たせば税制控除の対象になるかは、企業の規模によって異なる点に注意が必要です。

控除できなかった金額の繰越制度の新設

2024年度税制改正では、控除できなかった金額の繰越制度も新設されています。これは、中小企業が賃上げ促進税制に定められた要件を満たす賃上げを実施した年度において、控除しきれなかった金額があった場合、その金額を最大5年間繰り越せる仕組みです。この改正によって、一時的に赤字になっている中小企業も賃上げ促進税制を利用しやすくなりました。

通常、赤字企業では税負担が発生しないことから、税額控除も受けられません。この点、繰越制度によって、赤字の年度でも賃上げを行っていれば、賃上げ促進税制の控除額を計算して、将来黒字になった年度に控除できるようになりました。控除額が適用できなかった事業年度から5年以内に黒字の年度があれば、未控除額を税額から控除できます。

賃上げ促進税制では法人税・所得税額の20%までという控除限度額がありますが、黒字の年度で適用した繰越控除額が控除限度額を超えた場合でも、超えた分はさらに翌期以降への繰り越しが可能です。

■賃上げ促進税制の繰越制度のイメージ

賃上げ促進税制の繰越制度のイメージ

賃上げ促進税制の適用要件

賃上げ促進税制の適用要件には、必須要件と2つの上乗せ要件があります。それぞれで、下記のような要件を満たさなければなりません。

必須要件:前年度と比べて従業員に支払う給与が増加していること

賃上げ促進税制の適用対象となるには、前年度と比べて従業員に対する給与などの支給額が一定割合以上増加していなければなりません。中小企業、中堅企業、大企業における給与など増加率の要件と税額控除額は下記のとおりです。

■中小企業の場合

前年度と比べた給与などの支給額の増加率 税額控除額
1.5%以上増加 支給増加額の15%を控除
2.5%以上増加 支給増加額の30%を控除

■中堅企業の場合

前年度と比べた給与などの支給額の増加率 税額控除額
3%以上増加 支給増加額の10%を控除
4%以上増加 支給増加額の25%を控除

■大企業の場合

前年度と比べた給与などの支給額の増加率 税額控除額
3%以上増加 支給増加額の10%を控除
4%以上増加 支給増加額の15%を控除
5%以上増加 支給増加額の20%を控除
7%以上増加 支給増加額の25%を控除

上乗せ要件:前年度と比べて教育訓練費の額が増加していることなど

上乗せ要件として、前年度と比べて教育訓練費の額が増加している場合などの要件を満たせば、控除率が増加します。上乗せされる控除率は、中小企業では10%で、中堅企業・大企業の5%と比べて優遇されています。この上乗せ要件については、中小企業と中堅企業・大企業で要件も異なりますが、中小企業の場合は下記2点の要件をいずれも満たさなければなりません。

<中小企業の場合の教育訓練費に関する要件>

  • ・ 教育訓練費の額が前年度と比べて、5%以上増加していること
  • ・ 適用事業年度の教育訓練費の額が、適用事業年度の全雇用者に対する給与などの支給額の0.05%以上であること

中堅企業・大企業の場合、1つ目の増加率の要件について、5%以上ではなく10%以上となっている必要があります。

上乗せ要件:子育てとの両立・女性活躍支援に関する認定を受けていること

子育てとの両立をサポートする企業の認定制度「くるみん」や、女性活躍支援に関する認定制度「えるぼし」の認定を受けている企業でも、賃上げ促進税制の控除率が上乗せされます。上乗せされる控除率は、企業規模にかかわらず5%です。「くるみん」や「えるぼし」には、取り組みの水準によっていくつかの種類があり、この上乗せ要件では企業規模に応じて必要な認定の種類が異なります。

例えば、「くるみん」の場合、基本となる「くるみん」のほか、高水準の取り組みを行う企業が認定される「プラチナくるみん」などがあり、不妊治療を受ける労働者に配慮した職場づくりをしている場合はそれぞれの認定にプラス認定を付加できます。「えるぼし」には、取り組みの水準に応じて3段階の認定があり、特に優良な取り組みを実施する企業は「プラチナえるぼし」の認定を受けることが可能です。

中小企業の場合、「くるみん」以上または「えるぼし」の2段階目以上の認定を受けていれば控除率を上乗せできます。中堅企業になると、「プラチナくるみん」か「えるぼし」の3段階目以上の認定を受けなければなりません。大企業の場合は、「プラチナくるみん」か「プラチナえるぼし」の認定が必要です。

また、それぞれの認定の取得時期にも、下記のような要件があります。

<適用事業年度中の取得が必要な認定>

  • ・ くるみん認定
  • ・ くるみんプラス認定
  • ・ えるぼし認定(2段階目以上)

<適用事業年度終了時点での取得が必要な認定>

  • ・ プラチナくるみん認定
  • ・ プラチナくるみんプラス認定
  • ・ プラチナえるぼし認定

賃上げ促進税制による企業のメリット

賃上げ促進税制の適用を受けると、企業にとっていくつかのメリットがあります。主なメリットとしては、下記2点が挙げられます。

税額控除ができる

賃上げ促進税制を活用するメリットの1つは、税額控除が適用されることです。増加した給与分のうち一定割合を税額から直接差し引けます。税額計算のベースとなる所得金額から控除される所得控除よりも、高い節税効果が得られます。

なお、控除額の上限は法人税や所得税の20%です。中小企業に関しては、繰越控除を利用すると上限を超えた金額を繰り越すことができます。

人材育成の促進にもなる

人材育成の促進に寄与する点も、賃上げ促進税制のメリットです。上乗せ要件には教育訓練費の増加も含まれているため、この税制を活用しながら従業員のスキルアップを目指すことができます。

DX推進の機運が高まりつつあり、既存の事業にとらわれない新規事業や新たな事業分野への参入を検討するケースも少なくありません。新たなスキルを身につけるための人材育成について戦略的な取り組みを推進することは、企業にとって重要な課題といえます。賃上げ促進税制は、こうした取り組みを後押しする制度の1つと捉えることもできるでしょう。

賃上げ促進税制による従業員のメリット

賃上げ促進税制は、従業員にとってもメリットがあります。代表的なメリットは、給与や賞与の増加が期待できる点です。賃上げ促進税制の必須要件は、従業員の給与などを前年度よりも多く支給することであるため、従業員にとっては年収アップにつながる税制といえます。

物価高の傾向が続く昨今、給与や賞与のアップは従業員のモチベーション向上に重要な要素です。従業員の潜在的な不安を解消し、高いモチベーションを維持して業務に取り組んでもらうためにも、賃上げ促進税制の活用は有効な対策といえます。

賃上げ促進税制の適用を受ける際の注意点

賃上げ促進税制は企業・従業員の双方にメリットをもたらす制度ですが、適用を受ける際に注意しておきたい面もあります。下記4点を念頭に置いて、適用を受けるか検討しましょう。

無理に適用しようとすると資金繰りが苦しくなる場合がある

賃上げ促進税制では、無理に適用しようとすると資金繰りが苦しくなる場合がある点に注意が必要です。賃上げ促進税制の適用対象となるには、必然的に給与や賞与の支給額を増やさなくてはなりません。要件を満たすために賃上げに踏み切った結果、資金繰りに苦慮するようでは本末転倒です。

税額控除によって得られるメリットは、あくまでも納めるべき法人税や所得税の金額を抑えられる点にあります。賃上げすることによって、従業員に支払う給与や賞与の負担が増すことに変わりはありません。税額控除が適用されるのは、給与などの増加分のうち一部に限られる点に注意が必要です。

一度賃上げを決定すると、元の水準に戻すのは一般的には困難です。賃金規程などを改定する際には、中長期的な人件費の負担を考慮した上で慎重に検討してください。

教育訓練費の上乗せ要件については対象者と範囲が限定されている

上乗せ要件のうち教育訓練費については、対象者と範囲が限定されている点にも注意が必要です。対象となるのは、国内の雇用者に対する教育訓練に限られます。下記に該当する人が教育訓練を受けた場合、賃上げ促進税制の上乗せ要件を満たすことはできません。

<賃上げ促進税制における教育訓練の対象外となる人>

  • ・ 法人の役員
  • ・ 個人事業主
  • ・ 使用人兼務役員
  • ・ 役員の親族や事実上の婚姻関係と同様の事情にある者
  • ・ 役員から生計の支援を受けている者
  • ・ 内定者などの入社予定者

また、教育訓練費の対象となるのは、下記の費用に限定されています。

<賃上げ促進税制における教育訓練費の範囲>

  • ・ 事業者が教育訓練などをみずから行う場合にかかる外部講師への謝金、外部施設使用料など
  • ・ 外部の企業や教育機関に委託して教育訓練などを行わせる場合の研修委託費
  • ・ 外部で行われるセミナーなどに参加させる場合の外部研修参加費

例えば、教育訓練に関連して支払う旅費や交通費、食費、宿泊費、居住費などは対象外となります。また、福利厚生を目的とした費用や、教材などの購入・制作費用なども教育訓練費には含まれない点に注意が必要です。

国内雇用者には、一時的な海外赴任者も含まれる

一時的に海外で働いている従業員に関しても、賃上げ促進税制の対象となる国内雇用者に含まれる点にも注意してください。国内雇用者とは、使用人のうち国内に所在する事業所について作成された賃金台帳に記載された者を指します。そのため、国内の事業所の賃金台帳に氏名が記載されている従業員については、現在の就業場所が国内外のいずれであっても対象者です。

賃上げ促進税制の適用を受けるには、一時的な海外赴任者も含めて給与などの増加や教育訓練費の増加といった要件を満たしていなければなりません。国内の事業所で就業していない従業員をカウントし忘れることのないよう、注意してください。

適用年度と前事業年度の月数が異なる場合は調整が必要になる

給与の増加率などを計算する際に、適用年度と前事業年度の月数が異なる場合は調整が必要になる点にも注意しなければなりません。

前事業年度が法人の設立年度や事業開始年度の場合のほか、決算期に変更があった場合などは、賃上げ促進税制の適用年度と前事業年度の月数にずれが生じる可能性があります。このようなケースでは、同じ月数の条件で給与・賞与や教育訓練費を比べることができません。そのため、前事業年度の給与などの支給額を適用事業年度の月数に合わせて調整することにより、同じ条件にそろえる必要があります。

賃上げ促進税制の適用要件とメリットや注意点を理解した上で活用を検討しよう

賃上げ促進税制は、2024年度税制改正で期限が3年間延長されたほか、税制優遇の内容も拡大されました。具体的には、子育てとの両立や女性活躍支援による控除率の上乗せ制度が新設されたことに加え、中小企業に関しては控除できなかった金額を最大5年間繰り越せる仕組みが新たに設けられています。昨今の物価高などの影響により、従業員の給与・賞与アップを検討している事業者様にとって、活用を検討しておきたい制度といえるでしょう。

ただし、賃上げ促進税制には必須要件が設けられており、適用を受けるには給与・賞与支給額を所定の水準を満たすよう増加させなくてはなりません。税制控除が適用されるのは給与等の増加分のうち一部に限られることから、賃上げが資金繰りの悪化につながらないよう慎重に判断する必要があります。また、上乗せ要件の教育訓練費に関しては、対象者および適用範囲が限定されている点に注意が必要です。

賃上げなどをした際に、中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件を満たすかどうかを簡単に判定したい場合は、達人シリーズの「年調・法定調書の達人」を利用すると便利です。「年調・法定調書の達人」では、給与・賞与のデータから「中小企業向け賃上げ促進税制適用可否判定表」が作成できます。
加えて、法人や個人事業主が節税効果をシミュレーションするには、現状の法人税や所得税を正確に把握しなければなりません。決算や確定申告の時期に慌てて準備を進めるのではなく、日頃からこまめに記帳を行い、必要に応じて現状の納税額を確認できるようにするのが得策です。

法人税や所得税の納税額を把握しておきたい事業者様には、達人シリーズ「法人税の達人」「所得税の達人」をおすすめします。「法人税の達人」は、法人税および地方税の申告書を作成できるソフトです。e-TaxおよびeLTAXにて申告可能な法人税の帳票のうち、98%がカバーされています。また、法人税を計算する際には、自動的に「納付税額一覧表」が集計されるため、納めるべき税額を手軽に確認できる点が大きなメリットです。

個人事業主の方は、「所得税の達人」で確定申告書を作成する際に自動で作成される「納税額管理表」を確認することにより、所得税の予定納税額や翌年度の納税予定額が一目で確認できます。また、前年分の申告書と当年分の申告書のデータを対比して表示する「所得税前期比較表」を活用すれば、前年分との差異についても一目瞭然です。

中小企業向け賃上げ促進税制の適否を簡単に判定したい事業者様や、活用する効果を見極めたい事業者様、現状の納税予定額を把握しておきたい事業者様は、「年調・法定調書の達人」「法人税の達人」「所得税の達人」をぜひご活用ください。

監修者

石割由紀人(石割公認会計士事務所)

公認会計士・税理士、資本政策コンサルタント。PwC監査法人・税理士法人にて監査、株式上場支援、税務業務に従事し、外資系通信スタートアップのCFOや、大手ベンチャーキャピタル、上場会社役員などを経て、スタートアップ支援に特化した「Gemstone税理士法人」を設立し、運営している。

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