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6.適用開始

(1)導入前の準備

「グループ全体で所得を計算する」という仕組み上、グループ各法人の作業状況が全体のスケジュールを大きく左右します。あらかじめ見積もったスケジュール通りに各法人の作業を進めるためには、余裕を持った事前準備がかかせません。

特に今まで「単体納税」を実施していた法人グループは、グループ通算制度を導入することが決まったら、「各四半期決算」「確定決算・申告」をスムーズに進めるために、関係者との事前ミーティングやグループ通算制度の理解、計算システムの選定・操作方法の習得など新たに覚えることが増えます。

①関係者とは

下記の図のように、各法人の経理担当者の他、顧問税理士、監査法人、システム会社など関係者が複数に及びます。

「連結納税」を実施していた法人グループも、連結納税制度とグループ通算制度の異なる箇所はしっかり理解し、決算をスムーズに進めることは重要となります。

②事前準備の主な項目

【単体納税だった法人グループの場合】

主な準備すべき項目の一覧表です。

準備事項 内容
A: 届出書の提出
適用しようとする最初の事業年度の開始日の前日から起算して3ヶ月前の日までに「通算制度の承認申請書」を提出(令和5年4月1日開始事業年度から適用する場合→令和4年12月31日までに提出)。
親法人の設立事業年度から適用しようとする場合、設立日と事業年度の関係によりいくつかのケースがある。
B: 体制の構築 ほか
各法人の担当窓口となる者の決定、人員の補充、作業分担、情報共有の方法などの「協力体制」の構築。各法人の問題点の洗出し など。
C: システムの選定
複雑な「グループ通算制度」の所得・税額計算は専用のシステムを使用することが「早期に正確な計算」を遂行するためには必須。
D: 事業年度の統一検討
親法人と事業年度が異なる場合の、統一するかどうか。
E: スケジュール
事前準備から確定申告書提出までのスケジュール。いつ何をすべきか決定し、もれなく実行することが最大のポイント。
F: 会計処理、調整
項目・方法の
統一
親法人と同一の会計処理・調整項目・調整方法にするかどうか。
G: 時価評価資産の洗い出し
時価評価すべき資産の洗出及び専門家への鑑定評価依頼。
H: 優遇税制の適用
グループ通算制度で優遇税制を受ける場合の各法人の適用準備。
I: 税効果会計
グループ通算制度による回収可能性の判断 など。
J: 勉強会の実施
グループ通算制度を理解し、決算をスムーズに進める。
K: システムの研修の実施
各メンバーは所得・税額を計算するシステムの操作方法を習得し、必要項目の登録を済ませておく。
A:届出書の提出

詳細は後述の「グループ通算制度の適用開始手続き」を参照してください。

B:体制の構築 ほか

グループ通算制度は「チーム」で決算・申告を行います。関係者は全員「チームのメンバー」となります。各人の役割を決め、役割をしっかりこなすことが必要です。わからないことや疑問に思うことは、他のメンバーに確認・相談をして早めに解決しましょう。

C:システムの選定

グループ通算制度を適用するにあたり、専用のシステム導入は「早期に正確な所得・税額計算をする」ためには必須となります。
グループ通算制度を適用すると決まったら、早速システムの選定を行います。
システムの選定をするにあたり、ポイントとなる項目を紹介します。

項目 ポイント
システムの
使いやすさ
今まで使用したことのないシステムを使うことは、慣れるまでの時間がかかります。「使いやすいシステム」を選択することで、操作に慣れるまでの時間を短縮でき、自信をもって決算に臨むことができます。
計算の速さ 「グループ通算制度」は複数の通算法人を1度に1グループとして計算するため「単体納税」の所得・税額計算よりも時間を費やすことが考えられます。「所得・税額計算の時間が短いシステム」を使用することで、スピーディーに決算を進めることができます。
電子申告対応 「グループ通算制度」では「電子申告」による申告書等の提出が義務となります。「電子申告をしやすい」システムを使うことで安心して申告データの提出を行うことができます。
税効果対応 税効果計算もシステムで一緒に行うことができれば効率的に決算を進められます。
操作研修会の
開催
システム会社による操作研修会があれば、初めてでも操作ができるようになります。
お試し版の利用 システム会社が「お試し版」を提供していれば、遠慮なく使ってみましょう。計算イメージがつきます。
コスト
パフォーマンス
「グループ通算制度」を節税目的で導入しても、使用するシステムのコストがかかっては意味がありません。
D:事業年度の統一検討

親法人と事業年度が異なる場合①本来の事業年度②グループ通算制度の事業年度(みなし事業年度)の2通りの事業年度ができることになります。

【事業年度の統一】

グループ通算制度の場合、親法人の事業年度を通算事業年度として適用します。
したがって親法人と異なる事業年度の子法人については、親法人に合わせた「みなし事業年度」を適用します。
(例:親法人の事業年度R5.4.1~R6.3.31 子法人の事業年度R4.9.1~R5.8.31)

※ 子法人はR5.8.31に本来の決算、R6.3.31にグループ通算用の決算を行い、結果2回決算を実施することになります。なお、R5.8.31の決算は会社法上の決算のみであり、税務申告は必要ありません。

E:スケジュール

通常の単体納税と異なり、各法人の所得計算のための申告書作成(システム入力)後、グループ全体での所得計算の実施となります。そのためグループの1法人でも訂正や誤りがあった場合、スケジュールが後ろ倒しとなり、遅れることも予想されます。誰が、いつまでに、何をやるか明確に設定し、各人がスケジュールに沿ってしっかり決算業務を行うことが大切です。
またどんなに気を付けていても不測の事態は発生するので、余裕をもったスケジュール策定をした方がよいでしょう。

F:会計処理、調整項目・方法の統一

各法人で会計処理や申告調整項目が異なると、結果的に会計や所得の計算結果は同じでも、非常にわかりにくく、そのために時間を費やす可能性もあります。
一般的には親法人が各子法人へ会計処理方法、申告調整項目(調整方法)を統一する方が、決算をスムーズに進めることができます。

G:時価評価資産の洗い出し

グループ通算制度適用開始前の資産の時価評価をする必要がある場合、特に土地等の不動産は外部の不動産鑑定士等に、鑑定評価の依頼が必要なケースも出てきます。鑑定の報酬もかかり、また依頼してもすぐに引き受けてもらえない可能性もあるので、余裕をもって早めの対象資産の洗い出しをした方がよいでしょう。

H:優遇税制の適用

各法人ごとに適用する制度、グループ全体で適用する制度があります。近年は制度の適用要件も難しく、煩雑な作業を伴う場合も多いので、早めに検討し準備をすることが必要です。

I:税効果会計

グループ通算制度を適用することで、繰延税金資産の回収可能性が変更となる場合もあります。税効果会計の与える影響も検討すべきでしょう。

※ 詳細は後述の「グループ通算制度の税効果会計」を参照してください。

J:勉強会の実施

グループ通算制度を知らずして、決算申告作業はできません。事前にしっかり理解し、決算作業時に慌てないようにしましょう。

K:システムの研修の実施

自社で各担当者が税金計算システムの操作をする場合、システムの使い方がわからないと決算作業ができません。システム会社が実施する操作研修会に積極的に参加し、操作方法を習得しましょう。

【連結納税を採用していた法人グループの場合】

決算作業等のスケジュールや手順は今までと大きくは変わりません。ただせっかくの機会なので今までの方法でよいか?再検討してみましょう。

準備事項 内容
届出書の提出 「なし」・・・何もしなければ自動的にグループ通算制度となる。
体制の構築 ほか 今の体制でよいか、改めて見直す。
事業年度の
統一検討
親法人と事業年度が異なっている場合、統一するか改めて検討する。
スケジュール 現在のスケジュールでよいか、改めて見直す。
会計処理、調整
項目・方法の統一
現在の処理方法でよいか、改めて見直す。
優遇税制の適用 グループ通算制度で優遇税制を受ける場合の各法人の適用準備。
税効果会計 グループ通算制度による回収可能性の判断 など。
勉強会の実施 グループ通算制度を理解し、決算をスムーズに進める。
システム研修の
実施
所得・税額を計算するシステムの操作方法を習得し、必要項目の登録を済ませておく。

③導入までの関係者を含めたTODOスケジュールサンプル(3月決算の場合)

3月決算の場合に、導入までの関係者を含めた作業スケジュールのサンプルをご確認いただけます。
以下のリンクをクリックして表示されるスケジュールをご確認ください。

スケジュールサンプルの詳細はこちら

➃導入後の関係者を含めたTODOスケジュールサンプル(3月決算の場合)

3月決算の場合に、導入後の関係者を含めた作業スケジュールのサンプルをご確認いただけます。
以下のリンクをクリックして表示されるスケジュールをご確認ください。

スケジュールサンプルの詳細はこちら

(2)グループ通算制度の適用開始手続き

連結納税を適用していた法人と単体納税だった法人では、グループ通算制度の適用開始手続きが異なるため注意が必要です。

①連結納税を適用している場合

ケース 手続き
グループ通算制度を
適用
手続きなし(自動で適用)
グループ通算制度を
適用しない
連結親法人が令和4年4月1日以降最初に開始する事業年度開始の日の前日までに「グループ通算制度へ移行しない旨の届出書」を提出

②単体納税の場合

単体納税だった法人グループの場合
ケース 手続き
A: グループ通算制度を適用
適用を開始しようとする事業年度開始の日の3月前の日までに「通算制度の承認申請書」を提出

※ 完全支配関係のある全子法人との連名で提出

B: 親法人の設立事業年度よりグループ通算制度を適用
申請書の提出期限は次のいずれか早い日
①  設立事業年度開始日から1月を経過する日
②  設立事業年度終了日から2月前の日
C: 親法人の設立事業年度の翌事業年度よりグループ通算制度を適用(設立事業年度が2月以下)
申請書の提出期限は次のいずれか早い日
①  設立事業年度終了日
②  設立事業年度の翌事業年度終了日から2月前の日

A:適用を開始しようとする事業年度開始の日の3月前の日までに提出(通常のケース)。R5.4.1開始事業年度から適用する場合には、R4.12.31までに申請書を提出します。

B-1:親法人の設立事業年度が5か月の場合

親法人の設立日がR4.11.1です。「設立事業年度開始日から1月を経過する日」=R4.11.30となります(設立事業年度終了日から2月前の日はR5.1.31)。いずれか早い日が期限のため、R4.11.30までに申請書を提出すれば、設立事業年度より適用されます。

B-2:親法人の設立事業年度が3か月の場合

親法人の設立日がR5.1.1です。「設立事業年度開始日から1月を経過する日」=R5.1.31、また「設立事業年度終了の日から2月前の日」=R5.1.31と同日となります。
したがってR5.1.31までに申請書を提出すれば、設立事業年度より適用されます。

B-3:親法人の設立事業年度が1か月の場合

親法人の設立がR5.3.1です。設立事業年開始日から1月を経過する日はR5.3.31、一方「設立事業年度終了の日から2月前の日」はR5.1.31となり、このケースの場合には「いずれか早い日」が存在しないため、設立事業年度からの適用ができません。
そこで「C:親法人の設立事業年度の翌事業年度よりグループ通算制度を適用」の提出期限までに申請書を提出します(翌事業年度より適用される)。

執筆協力:朝日税理士法人

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7.申告書の提出

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